「このまま持ち家に住み続けるべきか、それとも売って賃貸に移るべきか」——60歳を前にしたご夫婦から、よくいただくご相談です。実は、この問いは『損得』ではなく『暮らしの設計』で決めるもの。FP視点で、判断基準をスッキリ整理してお伝えします。
老後の住まい問題、数字だけでは答えが出ない理由
居住コストは50年で1億円超——持ち家も賃貸も楽ではない時代
最新の試算(2026年2月時点)によると、持ち家・賃貸ともに住み続ける基本コストは50年でおよそ1億円を超えると報じられています。3年前の試算より約2,000万円も上昇しており、修繕費・管理費・家賃相場のすべてが上がっています。「どちらが安いか」だけで決められる問題ではなくなっているのが実態です。
背景には物価上昇と金利上昇、そして社会保障費の増加があります。世帯所得はほぼ横ばいのまま、税・社会保険料などの非消費支出はこの30年ほどで約60%増加。住まいにかけられる金額は、見た目より余裕がありません。
「どっちが得か」という問いに潜む落とし穴
多くの方が「持ち家か賃貸か、どっちが得ですか?」とお尋ねになります。しかし、FPとしての知見をもとに申し上げると、この問い方自体が判断を誤らせる可能性があります。
家は「買い物」ではなく「人生のプロジェクト」です。たとえば住宅ローン(銀行から借りて家を買うためのローン)を35年で組むと、420回にわたり銀行にお金を払い続けます。420回ノーミスで払える人生設計ができるか——ここが本質です。一方、賃貸も「65歳以降、25年間家賃を払い続けられるか」という別のミッションがあります。
つまり、どちらを選んでも「長期の資金計画」という宿題からは逃げられません。ここを見落として「月々◯万円得する」だけを見ると、肝心の老後生活が傾きます。
判断基準はここ——5つの軸で整理する
ゴール起点で「暮らしの形」を先に決める
お金は「目的」ではなく「手段」です。住まいも同じで、器としての住まいを決める前に、中身である「暮らし」を描く順番が大切です。持ち家か賃貸かを検討する前に、まず以下を夫婦で言語化してみてください。
- 10年後、どこで、どんな人と、何をして暮らしていたいか
- 子どもや孫との距離感はどうしたいか
- 体力・気力が落ちたとき、生活動線はどうあるべきか
- 自分たちにとって「快適」とは、広さか・利便性か・自然環境か
このゴールが曖昧なまま物件や家賃を比較しても、答えは出ません。逆にゴールが見えれば、選択肢は自然に絞れていきます。
5つの判断軸——総コスト・流動性・リスク・相続・暮らしやすさ
① 総コスト(生涯住居費)
持ち家は購入費+ローン利息+固定資産税+修繕費(30年で500万〜1,000万円が目安)+管理費。賃貸は家賃+更新料+共益費。単純比較ではなく、自分たちの寿命想定(たとえば90歳まで)で通算してみるのがポイントです。
② 流動性(身軽さ)
賃貸はいつでも住み替え可能。持ち家は売却に時間と費用がかかります。介護施設への入居や子どもとの同居など、老後にライフイベントで住み替える可能性が高い方は、流動性の価値は大きいといえます。
③ リスク
賃貸の最大リスクは「高齢者の入居審査」。連帯保証人の確保や孤独死への備えなど、ハードルが年々上がっています。持ち家のリスクは「建物の老朽化」と「住まないのに維持費だけがかかる空き家化」。自分たちが耐えられないリスクはどちらか、で考えると判断しやすくなります。
④ 相続・資産性
持ち家は家族に遺せる資産です。ただし立地や築年数によっては「遺すと困る不動産」になる可能性もあります。賃貸は何も遺らない代わりに、家族に処分の手間を負わせずに済みます。家族構成と資産価値の両面から判断してください。
⑤ 暮らしやすさ(段差・動線・近隣関係)
老後の住まいは「段差がない」「バリアフリー」「病院・スーパー徒歩圏」が快適さを大きく左右します。今の住まいがこれを満たしているか?満たせないなら改修費か住み替え費が必要になります。
ケース別シミュレーション——あなたはどのタイプ?
3つの典型パターンで考える
【パターンA】65歳で住宅ローン完済・持ち家を維持
月々の住居費は管理費・固定資産税・修繕積立で3〜5万円程度。夫婦で年金22万円でも生活は比較的しやすい水準です。ただし20年後の大規模修繕費(戸建てなら外壁・屋根で300万〜500万円)を別枠で準備しておく必要があります。「固定費が低い」という安心感は、老後の大きな武器になります。
【パターンB】退職金で住み替え——駅近コンパクトマンションへ
広い戸建てを売却し、築浅の駅近マンション(2,000万〜3,000万円)に住み替える方が増えています。売却益で買い替え資金をまかない、余剰を老後資金に回す形です。バリアフリー・セキュリティ・利便性が同時に手に入る一方、管理費・修繕積立金で月2〜3万円の固定費は発生します。譲渡益には「マイホーム3,000万円特別控除」が使えるケースもあり、税金面も含めて事前に確認しておきましょう。
【パターンC】思い切って賃貸に回帰
相続対策や身軽さを優先して、持ち家を売って賃貸に移る選択です。家賃10万円なら年120万円×25年で3,000万円の支出を見込む必要があります。ただし「修繕負担なし」「住み替え自由」という自由度があり、子どもに不動産を遺さなくてよい安心感もあります。65歳以降は賃貸契約の審査が厳しくなりやすいため、できれば60代前半で動くのがおすすめです。
判断がつかないときは、FPに「数字の見える化」を
ご自身のケースで資金シミュレーションを組むのが一番の近道です。以下の3点を整理してFP相談に持ち込めば、90歳まで資金が足りるかを数字で見える化できます。
- 今後の年金受給額(夫婦合算)
- 現在の保有資産と取り崩し計画
- 住まいに関する希望(立地・広さ・近隣との関係)
相談する相手を選ぶときは、「金融商品を売るための提案」ではなく「人生のゴールから逆算した提案」をしてくれるかを見極めてください。独立性・長期サポート体制・報酬体系の透明性の3つが、良いアドバイザーのサインです。
まとめ
- 持ち家vs賃貸は「損得」ではなく「暮らしの設計」で決める
- 5つの軸(総コスト・流動性・リスク・相続・暮らしやすさ)で整理する
- 60代前半のうちに方向性を決めると、選択肢が広がる
まずは夫婦で「10年後、どこで暮らしていたいか」を一行書き出すことから始めてみてください。整理すれば、選ぶのが怖くなくなります。
💬「お金のことは、商品を買う前にゴールを整理することが大切です。まず、自分がどう生きたいかを書き出すことから始めましょう。」
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※本記事の情報は2026年4月時点のものです。税制・制度は変更される場合があります。個別の判断については、専門家へのご相談をおすすめします。

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