【2026-04-24】2026年改正・退職金10年ルールで損しない方法

「退職金は一時金で受け取るのと年金で受け取るの、どちらが得なのでしょうか?」――60歳を迎えるご夫婦から、最も多くいただくご相談です。さらに2026年1月、この判断に深く関わる「10年ルール」が始まりました。iDeCo(個人型確定拠出年金・毎月積み立てながら節税できる制度)や企業型DC(企業型確定拠出年金・会社が掛金を拠出する年金制度)を併用する方にとっては、受け取り方を間違えると100万円以上の差がつくこともある重要な制度改正です。正しく理解すれば大丈夫。今日は要点を整理していきます。

退職金の受け取り方・2026年に何がどう変わったのか

そもそも「退職所得控除」と一時金受け取りの優遇

退職金を一時金で受け取る場合、「退職所得控除」という非常に大きな税制優遇があります。控除額は、勤続20年までの期間は1年あたり40万円、勤続20年を超えた部分は1年あたり70万円です。たとえば勤続35年の方なら、控除額は1,850万円(40万円×20年+70万円×15年)。この金額までは、退職一時金にはまったく税金がかかりません。

さらに、控除額を超えた部分も「2分の1課税」という仕組みで、税金の対象となるのは残りの半分だけです。そのため、退職一時金への課税は実質的に非常に軽く設計されています。40年以上働いた方がご自身の「人生の集大成」として受け取るお金だからこその、手厚い優遇といえます。

一方、退職金を年金形式で受け取る場合は「雑所得」となり、公的年金等控除が適用されますが、毎年の受取額が所得として計上され続けるため、社会保険料の負担が積み上がっていく点が一時金と大きく異なります。受取期間を通じて、国民健康保険料や介護保険料、住民税に影響するケースが少なくありません。

また、年金形式の場合、会社が退職金を据え置いて運用する「予定利率」が一般に年1〜2%程度に設定されており、受取総額としては一時金より増えるように見えることがあります。ただし、その増えた分にも毎年税金と社会保険料がかかっていくため、手取りの実質効果では一時金の方が有利に働くケースが多いのです。この「見かけの総額」と「実質手取り」の差は、計算してみないと見えにくく、多くの方が判断を誤る典型的なポイントです。

多くの方が知らない「10年ルール」の正体

2026年1月1日から、複数の退職所得がある場合の重複受給ルールが「5年」から「10年」に延長されました。これが話題の「10年ルール」です。

具体的には、退職一時金を受け取った年の「前年以前9年以内(通算10年)」に、ほかの退職所得(iDeCoの一時金受け取りや企業型DCの一時金など)を受け取っていた場合、退職所得控除が重複して使えなくなる――という調整ルールです。

これまでは「先にiDeCoを60歳で一時金受け取り、その5年後の65歳で会社の退職金を一時金受け取り」という順序であれば、それぞれフルで退職所得控除を使えていました。しかし2026年以降は、10年以上空ける必要があります。つまり「iDeCo60歳受け取り→会社退職金70歳以降受け取り」という設計でなければ、控除の重複調整が入って税負担が増えるのです。

「何も知らずに60歳でiDeCoを一時金受け取りし、65歳で会社の退職金を一時金受け取りする」――このパターンだと、数十万円から100万円単位の追加の税負担が発生する可能性があります。FPとして8年間、多くのご相談をお受けしてきましたが、この10年ルールを正確に把握されている方は驚くほど少ないのが実情です。

なお、順序が逆の場合――つまり「会社の退職一時金を先に受け取り、その後にiDeCoの一時金を受け取る」場合は、従来どおり「5年ルール」(前年以前4年以内)が適用されます。10年ルールは、あくまで「iDeCoなどの一時金を先に受け取ってから、退職一時金を後で受け取る」パターンに適用されるものです。順序によってルールが違うことも、混乱の一因となっています。落ち着いて、ご自身のケースに当てはめて確認することが大切です。

損しない受け取り方を決める考え方

ゴール起点で「何のために・いつ使うか」を先に決める

お金は「手段」であり「目的」ではありません。受け取り方を決める前に、まず「そのお金を何のために・いつ使うか」を整理することが重要です。税金の有利不利を先に比較しても、使いみちがはっきりしないままでは、最適解にはたどり着けません。

たとえば、使いみちによって最適な受け取り方は次のように変わります。住宅ローンの完済に使うのであれば、すぐに全額が必要なので一時金受け取りが有利です。60代の生活費の補填であれば、公的年金にプラスして年金形式で平準化する方法もあります。80歳以降の介護・医療費への備えなら、一時金で受け取ってから新NISAなどで運用を継続し、必要な時期に取り崩す方法も有力な選択肢です。

資産は目的別に整理する――FPとしての知見をもとにお伝えしたい核となる考え方です。「すぐ使うお金」「じっくり育てるお金」「楽しみのお金」の3つに分けたうえで、退職金の受け取り方もそれぞれの役割に合わせて組み立てるのが理想です。

さらに、人生100年時代という言葉の通り、退職後の人生は30〜40年続きます。受け取ったお金をそのまま預金に置いておくのか、使いながら運用して資産寿命を延ばすのか――この判断にも、受け取り方の選択が影響します。一時金で受け取れば、その後の運用の自由度は格段に高まります。ご夫婦で「退職後どんな暮らしをしたいか」という人生設計を話し合うことが、実は税金の計算以上に重要な出発点になります。

具体的なアクション・優先順位

FPとしての知見をもとに、次の順番で整理することをおすすめします。

第一に、退職金・iDeCo・企業型DCの予定受取総額をリストアップする。第二に、それぞれの予定受取時期(年齢)を書き出す。第三に、2026年から始まった「10年ルール」に該当しないか確認する。第四に、一時金・年金・併用パターンで手取り額をシミュレーションして比較する。第五に、税金以外の要素(社会保険料・扶養・配偶者の健康保険)への影響を確認する。

特に第五は多くの方が見落とす盲点です。一時金だけで受け取ると翌年以降の住民税や国民健康保険料への影響が限定的であるのに対し、年金形式だと毎年の所得にカウントされ続け、保険料や介護保険料の等級が上がる可能性があります。長期的な手取り総額で見ると、一時金の方が有利になるケースは少なくありません。

また、会社に退職金の受け取り方を伝える書類の提出期限は、通常退職日の数ヶ月前です。「一度決めたら変更できない」ケースが多いため、退職の1〜2年前から準備を始めるのが安心です。

近年はインフレが家計に影響を与え続けています。世帯の非消費支出(税・社会保険料など)はこの30年余りで約6割増加している一方、手取り収入は横ばいに近い状況です。退職金の受け取り方を誤って社会保険料を増やしてしまうと、老後の手取りをさらに圧迫することになりかねません。だからこそ、受け取り方一つで決まる税金と社会保険料への影響を、正しく理解しておく必要があるのです。

ケース別・あなたの場合はどうする?

読者が自分に当てはめやすいケース別の具体例

■ ケースA:勤続35年・退職金2,500万円+iDeCo500万円(合計3,000万円)

退職所得控除は勤続35年で1,850万円です。iDeCoを60歳で一時金受け取り、会社退職金を65歳で一時金受け取りにすると、2026年からの10年ルールにより退職所得控除が調整され、税負担が増える可能性があります。この場合、iDeCoの「受け取り開始年齢を70歳まで繰り下げる」もしくは「iDeCoを年金形式で5年〜20年に分割受け取りする」ことで、税負担を最小化できる可能性があります。このケースでは事前シミュレーションで100万円以上の手取り差が出ることもあり、ぜひ専門家に相談したいケースです。

■ ケースB:勤続30年・退職金1,800万円のみ(iDeCoなし)

退職所得控除は勤続30年で1,500万円(40万円×20年+70万円×10年)。退職金1,800万円から1,500万円を差し引いた300万円の2分の1の150万円が課税対象となり、所得税・住民税合わせて概ね20万円前後の税負担となります。この場合は、シンプルに一時金受け取りが有利です。手取りの1,780万円前後を「生活防衛資金」「運用資金」「楽しみの資金」に色分けして活用しましょう。

■ ケースC:退職後に住宅ローン完済+老後資金確保を同時に目指す夫婦

退職金のうち住宅ローン残債分は一時金で受け取って即時完済、残りは年金形式の選択肢も検討対象になります。ただし予定利率(会社が年金として残した退職金を運用する金利)が低い場合や、今後のインフレへの備えを意識する場合、一時金で全額受け取って自分で新NISAなど非課税口座で「使いながら運用する」方が有利になるケースもあります。判断材料が多いため、夫婦で話し合う時間と、数字を可視化するシミュレーションが不可欠です。

■ ケースD:勤続38年・退職金3,500万円+企業型DC800万円・65歳定年退職

退職所得控除は勤続38年で2,060万円(40万円×20年+70万円×18年)。両方を同時期の一時金で受け取ると「前年以前9年以内」に該当してしまい、控除が重複調整されるケースです。そこで、企業型DCを「受け取り開始年齢を75歳まで繰り下げる」設計にすることで、会社退職金受給(65歳)から10年以上空けられます。こうすれば、企業型DC800万円にも新たに退職所得控除を適用できる可能性があります。75歳までの10年間は企業型DC内で運用を続けられるため、資産を減らさずに育てながら税優遇を最大化できる――という一石二鳥の戦略になります。

専門家に相談するタイミングと見極め方

次のいずれかに当てはまる方は、退職の1〜2年前から専門家に相談することをおすすめします。iDeCoと企業退職金の両方を受け取る予定のある方、退職金と住宅ローンの残債が拮抗している方、退職後も事業や不動産収入が見込まれる方、配偶者の年金・扶養状況と絡めて判断したい方――これらに該当する場合、個別要件で結論が大きく変わるため、独自のシミュレーションが不可欠です。

良いアドバイザーの見極め方は、「商品を売るための提案」ではなく「人生のゴールから逆算した提案」をしてくれるかどうかです。独立性の高さ、長期的にサポートしてくれる体制、そして報酬体系の透明性――この3点を必ず確認しましょう。税理士・FPが連携してワンストップで対応してくれる相談窓口だと、なお安心です。

まとめ

要点は3つです。第一に、退職金の一時金受け取りは「退職所得控除+2分の1課税」で税制上きわめて有利なこと。第二に、2026年1月から始まった「10年ルール」により、iDeCoと退職一時金の受取時期の設計が決定的に重要になったこと。第三に、税金の有利不利だけでなく、社会保険料への影響やライフプランにおける資金の用途から逆算することが大切なこと。まず今日やっていただきたいのは、ご自身の退職金・iDeCo・企業型DCの予定受取時期と金額を、A4の紙1枚に書き出してみることです。整理すれば大丈夫です。

💬「お金のことは、商品を買う前にゴールを整理することが大切です。まず、自分がどう生きたいかを書き出すことから始めましょう。」

📌 無料相談・セミナー情報はこちら

※本記事の情報は2026年4月時点のものです。税制・制度は変更される場合があります。個別の判断については、専門家へのご相談をおすすめします。

コメントを残す